楽しくてつらい映画の音楽づくり

今、新作『ハーブ&ドロシー50X50』のオリジナル音楽の曲作りを進めている。映画の音入れは、製作過程の中でも一番困難であり、なおかつ楽しい部分でもある。

前作『ハーブ&ドロシー』の音楽がいい、とお褒めを頂くことも多いのだが、これも一重に作曲家のデビッド•マズリンが頑張ってくれたおかげ。どうやって彼と出会ったのか、そのいきさつを話すと皆びっくりするのだけれど、今振り返ると、確かによくもまあ、こんな方法で彼に行き当たった、と思う。

というのも、彼を見つけたのは、Craig’s Listというネット掲示板。今や全世界に広まっているが、もともとNYからスタートした掲示板で、いらなくなった自転車やカメラの処分から、アパートや仕事、恋人探しまでする。とにかく、何かあれば、すぐにクレイグズ・リストに載せたり、ここで探しものをするのが当時のニューヨーカーの習慣だった。
その頃、映画作りのプロセスを全くわかってなかった私は、藁をもつかむ思いで、クレイグズ•リストに「NY近郊在住の作曲家求む」の求人広告を出した。すると、1週間もしないうちに、世界中から100人を越える作曲家から申し込みが殺到。ああ、世の中には何と多くの作曲家が存在し、仕事を探しているのだろう、とびっくり。その中から、NY周辺在住で私たちの編集室に足を運んでもらえる範囲の人に返答し、作品のサンプルCDを送ってもらう。(当時は、まだリンクを張ったりFTPサイトにアップロード、という技術は普及していなかった)

そのサンプルCDを全部聞いて、私たちの映画の感覚に近いと思う人を5人までしぼり、編集室に来てもらう。そこで会って映画の冒頭15分ほどを見せ、映画にどれくらい興味を持ってもらえるか。どんなポジティブな反応をするのか。編集のバーナディンと私との相性はどうか、などを見る。そして、5人にそれぞれ2分ほどのオープニングのシーンに曲をつけてもらった。以上のプロセスを経て最後に選ばれたのが、デイビッド。映画を見ていちいち笑ったり手をたたいたりして、反応がよかったし、私たちの意図を汲んで、一番オープニングにふさわしい曲を作ってくれたのも彼だった。何度も何度も辛抱強く曲を書き換えて、最後にはステキなハーブ&ドロシーの世界を音楽で築いてくれた。デビッドと巡り会えて本当にラッキーだったと思う。

当時は駆け出しだった彼も、今ではハリウッドのスタジオ製作の映画音楽を担当するまでになり、大出世。おかげで、エージェントまでついてしまって、彼にとっては喜ばしいことなのだけれど、今回は、エージェントを通じてまずは彼のギャラからハードに交渉しなくてはならないのは、少々キツかった。
今回は、いくつか新たに作曲する部分はあるものの、多くは『ハーブ&ドロシー』の曲をそのまま使ったり、ステムと言って曲をまるごとではなく、一部の楽器のメロディだけを使うようにしている。

今苦戦しているのは、オープニング・シーンの音楽。今まで「これだ」と思っていたシーンを止めて、いきなりハーブ&ドロシーの過去を振り返る映像と、新しく撮影したシーンをモンタージュにしてみた。ここで、ハーブ&ドロシーが誰なのか、これから何を伝えようとしているのかを映像と音楽ですぐに伝えるようにしたい。
何となくエキサイティングな物語が今から始まりますよ、という期待を持たせるメロディに加えて、二人の寄贈プロジェクトの壮大さを表現するような、威厳を持たせたい。冒頭は、小学生が美術館に入ってきて、展覧会の入り口でハーブ&ドロシーの写真の前で説明を受けるシーンなのだけれど、子供たちがかわいらしいので、どうも子供っぽい音楽になってしまう。いや、そうじゃなくて、映像はかわいくても、音楽は大人っぽくね、と何度デビッドに説明しても、どうも上手くいかない。今まで4回スコアを書き直してもらったけれど、まだこれ、という音になっていない。

あと、アーティストたちのユーモアたっぷりのコメントが続く部分には、ファニーな音楽をつけて欲しい、とお願いしたら、ユーモアがあまりに行き過ぎて、まるでサーカスの音楽みたいになってしまっている。これでは、ピエロが出て来て、これから綱渡りが始まるぞーという感じだ。

こういう作曲家とのコミュニケーションが、実に難しい。最初の頃は、「なんだかわからないけど、絵と音が合ってないからやりなおし!」しか言えなかった私。幸い編集のバーナディンが、とてもすばらしい音楽と映像センスを持っているので、彼女に手取り足取り作曲家とのコミュニケーションの方法を教えてもらった。なぜ音楽が合わないのか?何をどう改善するべきか?メロディはいいけど、楽器が合わないんじゃないか?クラリネットじゃなくて、ピアノにしてみては?ここのシーンでは、何を表現しようとしているのか? 音楽を考えることで、各シーン、そして映画全体をものすごく深く理解することになる。

ところで、前作の映画に応募してサンプルCDを送ってくれたのに最終選考まで残らなかった作曲家たちに「ごめんなさい。今回は残念ながら•••」というお断りのメッセージを送ったところ、何人かから「親切なメッセージをわざわざ送ってくれてありがとう。こんな事は初めてだ。普通、採用されなかったら何の音沙汰もないからびっくりした!」という返事が来た。こんな当たり前のメッセージを送っただけで感謝されるなんて。作曲家というのは、実に厳しい状況で仕事しているのだな(涙)。

2 thoughts on “楽しくてつらい映画の音楽づくり

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