5年ぶり、クリストとのインタビュー

撮影後にクリストとクルーと

前回『ハーブ&ドロシー』のインタビューで、マンハッタンのクリストのスタジオを訪れたのは、5年前。まだ奥さんのジャンヌ=クロードが健在の頃。必ず2ショットで二人同じサイズで画面に入るように撮影すること、とジャンヌ=クロードに厳しく指示された。クリストが話そうとすると、真っ赤に燃えるような髪の毛を揺らして、彼女が話し始める。夫婦二人のやりとりが痛快だった。

クリストは、今回インタビューを快諾してくれたものの、一人で、どれくらい話をしてくれるのだろう・・・そんな私の不安なんて吹き飛ぶように、クリストはものすごく饒舌に、話し出したら止まらない。そして、ジャンヌ=クロードの名前が全ての文章に散りばめられていた。特に二人で1970年代からスタートしたマスタバとコロラド・リバーのプロジェクトの話になると目がキラキラする。今は、クリスト一人で進めているのに、あたかもまだ彼女が生きているかのような口調で。パートナーシップは、パートナー亡き後も続いている。

エネルギッシュなクリストを見て元気をもらった。彼の30年越しの壮大なプロジェクトに比べたら、私の映画なんて本当にささやかなものだとつくづく思う。

『50X50』の完成&発表を遅らせるという決断

いま、日本からNYへ戻る飛行機の中でこのメルマガを書いている。
今回は実質1週間だったけれど、とても実り多い滞在だった。まずは、メルマガを購読してくださってる皆さんにいち早くご報告。

日本での『ハーブ&ドロシー 50X50(仮)』公開が、来年春にほぼ決定しました!

映画の完成は当初、今年秋のはずだった。ハンプトン国際映画祭が10月の初めにあるので、そこでのプレミアを目指していた。ハンプトンは、2008年に『ハーブ&ドロシー』がドキュメンタリー映画部門の最優秀賞と観客賞のダブル受賞をした映画祭で、アートや映画の関係者も多く、プレミアをするにはこれ以上ぴったりのところはない。

プログラミング・ディレクターも「できるだけ完成版に近いカットを早く見せて欲しい」と、締め切りはとっくにすぎているのに、辛抱強く待ってくれた。私の頭の中は「『50X50』の世界初公開は、ハンプトン映画祭以外では考えらない」という思いで固まっていた。

そんな折、映画完成を急ピッチで進めていた7月末、ハーブが亡くなった。もしかすると……、という思いは春ごろからあったので、ハーブの逝去は ある程度想定内。

映画中で「ハーブの死」は、ストーリーとして大切だけれど、そこを強調しすぎるとテーマがずれてしまうのではないか。さらりと伝えるだけで、内容を大きく変える必要はない、と信じていた。

ところが。

ハーブが亡くなって3週間後、編集がどうしても前に進まない。それに、ハンプトン映画祭でのプレミアが決まっても、9月一杯でオンライン編集や音ミックスを終えて完成させる、というスケジュールで間に合うのだろうか。何よりも、ハーブが亡くなってからまだ1ヶ月ほどなのに、慌てて映画を完成してしまっていいのだろうか。

不安と疑問で頭がパンパンになる。NYでオフィスをシェアしているフィルムメーカーに相談したところ「まだ物語が決着してないんじゃないの?」という答え。「それに、映画祭のスケジュールに合わせて映画を完成させるなんてナンセンスだ」と。

その時、真っ暗な雲がすーっと晴れた気がした。そうだ、確かに二人の物語が完結するには、もう少し時間がかかるかも知れない。

ハーブのお葬式で、ドロシーは、コレクションの終了宣言をした。二人のコレクションは、ハーブと共に始まり、ハーブと共に終わったと。
クリスティーズの山口さんと先日お昼を食べたときに聞いたのは、コレクションは3つのD -Death(死), Divorce(離婚), Debt(負債)- で大きく動くということ。ハーブの死は、映画の中で大きな意味を持つのではないか?

そう思ってる矢先に、ドロシーから思わぬことを聞いた。ハーブの50X50に対する本当の思い、そして彼のコレクションに対するビジョン。

ハーブの生前には語られなかった新しい事実が明るみにでて、正直びっくり。
(詳しくは、映画を見てのお楽しみに)

やはり彼の死は、きちんと伝えなければダメだ。物語は、まだまだ完結していない。私の中でその思いがはっきりした時、ハンプトン映画祭での公開をきっぱり諦めた。

ハーブとドロシーの結婚50周年記念でもある今年中に、映画を完成して公開できなかったことは、とてもつらい。サポーターの皆さんにも、今年中の完成&公開を約束していたので、申し訳ない気持ちで一杯だ。でも映画のピクチャー・ロックは、一度しかない。中途半端なクオリティで、映画を世に出したくない。

監督としての私が「映画完成を来年春に延期」を決定して、「ハンプトン映画祭での世界プレミア」を叫んでいた、プロデューサーとしての私の声を黙らせた。

いまは、これでよかったと心から思う。来週から、新たな撮影やインタビューの予定が沢山入っている。つないであるカットにも大きく手を入れて、オープニングもエンディングも変えて一からやり直し。

そのため当初の予算もオーバーなので、また資金集めもしなくてはならない。本当にとほほ、だけれどこれも現実を相手にしているドキュメンタリー映画の宿命だから仕方がない。

という事で、完成は今年一杯で、アメリカでの公開も来年春になりそう。この後『ハーブ&ドロシー 50X50』は、日米同時公開を目指して前進します。