ユニクロ好きのハーブ&ドロシー・・・そして来春DVD発売!

11/15から日本に滞在しています。今は、雪がちらつく札幌です。「札幌はすごく寒いから暖かくしておいで」と友人に言われて、東京でユニクロのダウンジャケットを買いました。というのも、最近ドロシーがユニクロにすっかりはまっていて、ついつい影響を受けてしまったのです。を出る直前、ハーブ&ドロシーを訪ねた時、ドロシーが真っ先に見せてくれたのは、買いたてのユニクロのダウンコート。赤紫色のロングコートに袖を通しながら、かに軽く、ポケットも深くて着心地がいいかを説明してくれました。「これで$100もしないのよ!」と嬉しそうに自慢してました。今年の秋、NYはどこを歩いてもユニクロの広告で一杯でした。地下鉄の改札にある回転バーにまでUNIQLOのロゴがついてました。とにかく認知度を上げるのに、必死だったのでしょう。10月半ば、5番街のユニクロショップが大々的にオープンした直後、ドロシーから短いメールが入りました。「UNIQLOってどう発音するの?」いつもNYの老舗デパート、メーシーズかギャップでしか衣類を買わないドロシーの耳にも、ちゃんとユニクロのブランド名が届いて、店に足を運ばせたのだから、ユニクロのPR作戦は成功かも知れません。

そして先週、ドロシーからまた報告メールが入って来ました。「ユニクロで、ハーブと共有できる短いジャケットをもう一着買ったの。くるくる巻いて袋に入れて持ち歩けるのよ!」もしドキュメンタリーCMというジャンルがあったら、この一連の出来事を撮影してユニクロに持ちこみたいくらいです。東京のイメージフォーラムで『ハーブ&ドロシー』が11/13に封切られてから丁度1年。有り難いことに、『ハーブ&ドロシー』の上映会は、今も全国で続いています。先日は、横浜のジャック&ベティで4回目の上映があって駆けつけました。3度も映画を見てくれたという学生さんや、奥さんが感動したので「見て来なさい」と背中を押されてきたという初老の男性がいたり、まだまだ『ハーブ&ドロシー』の人気が続いているのは、本当に嬉しいことです。上映後には、沢山の質問が出ました。
「二人は今何歳で、元気なのか」
「二人は、最初から撮影を許可してくれたのか。」
「二人のコレクションの中で一番印象に残った作品は何か」
などなど。
そういう質問をされる度に、映画の製作当時を懐かしく思い出します。撮影をスタートしたのは7年前の9月。二人は、撮影をすぐに許可してれたものの、最初はほんの少ししか扉を開けてくれませんでした。自分たちが見せたいところだけ、差し支えない範囲でぽつぽつと撮らせてくれた程度。資金はないけど、時間はたっぷりあるのがTVにはない、ドキュメンタリー映画の強みです。そこでカメラなしで一緒におしゃべりしたり、ご飯を食べたりするうちにだんだん打ち解けてくれるようになりました。3年も発つと、カメラの前で平気で夫婦喧嘩を始めるほどになりました。そういう親密なシーンを撮れたのも、資金不足が幸いしたからですね。もし資金がたっぷりあって短期間で完成していたら、全然ちがうテイストの映画になっていたと思います。

二人のコレクションの中で一番印象深い作品は、何と言ってもリーチャード・タトルの「ロープ」。5センチほどのロープを小さなクギで止めただけの作品で、「なぜこれがアート?」とクビをひねる人も多いと思います。私はこの作品のおかげで、現代ア―トの面白さが少しだけわかるようになりました。このタトルの作品は、11/19中村キースへリング美術館でかれた座談会でも再び話題に上りました。この美術館は、山梨県の小淵沢にあって、なかなかすばらしい美術館ですので、是非皆さん行ってみて下さい。
当日は、上映会もあったのですが、大雨にも関わらず、会場は満席。東京から駆けつけてくれた人もいました。座談会では、館長の中村和男さん、美術ジャーナリストの村田真さん、東京FMのチーフプロデユーサー延江浩さんが参加して、日本人とアート、コレクション、80年代NYのアートシーンなどのテーマでお話をしました。タトルのロープ作品は、日本の一輪挿しに通じるものがあるのでは、という話で盛り上がりました。一輪の花から見えてくる雄大な自然と、一片のロープから見えてくるアーティストの世界観。見せたいもの、伝えたいことをできるだけ多く並べてプレゼンするのではなく、ほんの一部を切り取って、見えないものを想像させる。日本びいきのタトルは、ひょっとすると、一輪挿しからあの作品を発想したのかも知れません。

2007年にホイットニー美術館で開かれていたタトルの回顧展でロープ作品を見た時、私は何とも言えない胸騒ぎを感じました。そして小さな作品だからこそ浮き出される周囲のスペースの大きさに圧倒されました。アート作品の鑑賞とは、作品から見えて来るものだけじゃなくてえないものにも注意を払わなくてはならないことを教えられました。見えないもの、わからない事には、不安をかきたてられます。作品を前に,これがなぜアートなのか、という議論が白熱して取っ組み合いの喧嘩をする人もいるそうです。たかがロープの切れ端なのに、そこまで人の気持ちを逆撫でする力がある。だからこそ、すぐれたアート作品と評価されるのでしょう。

最後に、今回の日本滞在中に、『ハーブ&ドロシー』DVDの発売が正式に決まりました。ポニーキャニオンから、来年4月発売です。コメンタリーに、ギャラリストの小山登美男さんとピーター・バラカンさんをお迎えして対談します。そして削除シーン、日本配給の舞台裏など、特典も盛りだくさん。乞うご期待です!

パーティでのHerb & Dorothy夫妻・・・キックスターターを終えて

先週の土曜日は、イーストビレッジで開いた、
キックスターター・キャンペーンの
カウントダウンを見届け、達成を祝うパーティに
ハーブ&ドロシーも参加してくれた。ドロシーは、
パーティ直前に食べたシェパードパイにあたって
お腹をこわし、到着直後にトイレへ駆け込むという
ハプニングがあったものの、結局最後の
カウントダウンまで付き合ってくれた。
ハーブの妹さんのポーラやアーティスト、
友達も大勢駆けつけてくれた。ハーブは、口数も少なく、
ドロシーの横で静かに座っていた。最近の二人は、
ごくごく静かな毎日なので、久しぶりに
大勢が集まる場に連れてくるのが心配だったが、
二人とも楽しんでくれたようだ。

しかし、この2ヶ月は、
精神的にも身体的にも実にしんどい毎日だった。
おかげさまで、9月初めにスタートした60日間の
キックスターター・キャンペーンは、世界各国から
集まった730人のサポーターに支えられて、
目標額の$55,000をクリアし、
最終的にはその158%、 $87,331の資金が集まった。

週に一度ニュースレターを送り(最後の週は、3回発送)、
4つのフェイスブックアカウント、ツイッター、
タンブラーで常にメッセージを発信、ほぼ毎日
キャンペーンブログを更新、アート関係のブロガーに
呼びかけ、マスコミにプレスリリースを送り、
ハガキやフライヤーをギャラリーや映画館に置いてもらい、
50X50の美術館全てに協力要請のメールを何度も送る。
そして電話やメールでの連日のフォロー、
ミーティング・・・まるで選挙運動のようだ。
資金集めは、筋トレと同じで、最初はつらかったけれど、
そのうち資金援助をためらわずに口に出せる「筋肉」がついた。

この間、他の事はほとんど手がつかなかった。
ひたすら頭を下げて「サポートして下さい」と嘆願する日々。
新しくサポーターが増えるとキックスターターから
メールが入るので、どこにいて何をしていても、
メールが気になって仕方がない。ある日はサポーターが
沢山増えたと言ってはよろこび、翌日は全然ダメだ、
と言っては落ち込む。

一番つらかったのは、数字がほとんど動かない中盤戦。
横ばい状態が続き、1ヶ月経過した中間地点でやっと40%、
残り3週間地点で、50%。スタッフの士気もだんだん下がり、
イライラと緊張感が頂点に達して、チームワークがぐらつき始める。
「メグミさん、一体どうするんですか?!何か戦略は?」
と詰め寄られる日々。

そう、たかがファンドレイジングなのだ。
でも、このキックスターターの面白いところは、こうやって、
周囲の人全てをハラハラどきどきさせて、巻き込んでしまうところだ。
目標額をたて、期日を決める。それまでにお金が集まらないと
すべてを失う。このシンプルで明快なルールがあるからこそ、
資金集めという苦痛極まりない作業が、ある種のゲーム感覚で
楽しめてしまう。それが、キックスターターがここまで
広まった理由でもあると思う。

気の毒なことに、ドロシーもこのゲームに
巻き込まれてしまった一人だ。最後の1ヶ月は、
朝起きてすぐにマックブックに直行し、キックスターターの
サイトをチェックする。気になって、1日に最低5回は
サイトを見ていたらしい。絶望的な声で
「目標額に達成するのはムリじゃない?」という電話が
何度かかかってきた。一斉メールを何度も送って、
サポートをよびかけてくれたり、ハガキをいつもバッグに
入れて持ち歩き、 アパートの廊下で、スーパーのレジの列で、
病院の待合い室で、会う人、会う人に、
ハガキを渡して宣伝してくれた。

そして、キックスターター・サイトのサポーターリストを見て、
あの人が寄附してくれた、この人はまだだわ、と私たち以上に
一喜一憂していた。ありがたいとともに、情けない。
こんなことに巻き込んでしまって申し訳ない気持ちで一杯だった。

終了15日前、シアトルに住むサポーターの呼びかけが、
思わぬはずみをつけた。
「サポーターのみなさん、さあ,支援額を2倍に増やして、
この映画が完成できるよう応援しましょう!」と。
そして、多くの人がつぎつぎと支援額を2倍、3倍に
増やしてくれた。中には、$500を$1,000に増やしてくれる人もいた。

しかし、その効果はそんなに長くは続かなかった。
残り8日、目標額まで、まだ2万ドルも足りない。
私にとっての最後の頼みの綱は、日本の知り合いだった。
このキャンペーンは、まずアメリカで成功させなくては、
と最後の最後まで残しておいた切り札。それは、この1年間で
『ハーブ&ドロシー』日本公開にあたって
お世話になった500人の方々への呼びかけ。
もうダメだ、と断念して一斉メールを送ったのが最終日の8日前だった。

翌日、メールボックスを空けると、日本からの
多くのご支援とともに、去年『ハーブ&ドロシー』の企業スポンサーに
なって下さったハイパーギア社の本田社長から、
スゴいメッセージが届いていた。
「ぜひ、会社でご支援したく思います。2万ドルサポートすれば、
目標達成できますよね・・・・99.9%は佐々木監督をはじめとする、
スタッフとサポーターの方々の努力と熱意と多分、汗と涙でしょう。
でもそこまでして物をつくる、世の中に出していくという喜びに、
あと、0.1%お手伝いできるだけで、実現を一緒に喜べるというのは、
これくらい嬉しいことはありません。」

本田さんからの高額のご支援は、言葉に言い尽くせないほど
ありがたいものだ。しかし、本田さんから頂いたこのメッセージは、
プライスレスだ。深い感動とともに、脱帽させられた。
本田さんの言葉には、
21世紀の新しいアート支援—クラウドファンディングの真髄がある
と思った。こういう気持ちで皆がそれぞれ可能な範囲で
アーティスト支援に参加すれば、世界はアートと愛と感謝で
一杯になるだろう。今回サポートしてくれた730人の方々も、
こういう気持ちで参加して下さったのかと思うと、とても謙虚な
気持ちになった。そして、私自身もキックスターターで、
いくつかのプロジェクトのサポーターになった。

翌日から続々と届いた日本からの寄付のおかげで、
目標額はあっという間にクリアし、その後も支援は続いた。
そして『ハーブ&ドロシー50X50』は、
キックスターターで成功した1万以上あるプロジェクトの中の
上位1%、また映画部門では、上位17位にランクされた。

大変だったけれど、とても貴重な経験をさせていただいた。
製作資金の調達だけではなく、支援とは何か、
支援されるには何が必要で、どのような責任を伴うのかを教えられた。

みなさんの大切な1ドル1ドル、そして夢と期待に紡がれて、
この続編は一体どんな映画になるのだろう。楽しみであると同時に、
大きなプレッシャーを感じる。とにかく、がんばらなくては、です。
これからギアチェンジをして、再び製作現場に戻ります。