アメリカに見るアート支援システム“キックスターター”

映画製作のプロセスの中でも、資金集めは一番苦労する部分です。
アメリカの大学には、ファンドレイジングを教える学部もあるくらいで、
特殊な技術と才能を必要とする専門分野として確立しています。
お願いする時には、プッシュしすぎてもいけないし、
控えめすぎてもダメ。このさじ加減が実に難しい。
ファンド・レイジングは、まさにアートだなあといつも思います。

アートなファンド・レイジングと言えば、
ウエブを使った資金集めのサイト「キックスターター」が、
最近アメリカで大きく注目されています。
実は私たちも今、このサイトを使って続編の資金集めの
キャペーンをしています。アート、音楽、映画、ダンスなど、
クリエイティブなプロジェクトは、今まで、財団や企業、
一部の裕福な個人による高額の資金援助で実現してきました。
それが、キックスターターのようなサイトを通じて、一般の人が
小額の資金援助($1から可能)をできるようになりました。
「クラウド・ファンディング」と言って、こうしたウエブを通じた
資金集めのやり方が、ここ2年ほどで急速に広まっています。
少数のパトロンに頼るのではなく、大勢の一般サポーター
による「民主的なアート支援」が実現しているわけです。

キックスターターがユニークなのは、クリエイティブな
プロジェクトに限っていること、寄付のお返しとして、
サポーターへのプレゼントを用意しなくてはならないこと。
そして、目標金額と締切り日を定めて、期日内に目標に
達しない場合は、集まったお金が全てサポーターに戻される
という、ALL OR NOTHINGのルール。
例えば、私たちの目標金額は5万5千ドルなんですが、
締切りの11月5日深夜になって、1ドルでも足りないと、
お金は全てサポーターに戻されてしまいます。

最初は「そんなバカな」と思ったのですが、キックスターターが
成功したのも、実はこのゲーム性があるからだと思います。
人間は、明確なゴールと締め切りがあると、俄然頑張るんですね。
成功するプロジェクトは、大抵締め切り前の1週間に、
どっと最後の寄付が集まって,目標に到達するそうです。

キックスターターは、会社が設立されてまだわずか2年半ですが、
1万件以上のプロジェクトをサポートし、合計7500万ドル(約58億円)
相当の資金集めに成功しています。

私たちは、今年の夏一杯かけて、このキャンペーンの準備をしました。
他の成功した映画のプロジェクトを調べて、キックスターターのしくみを研究し、
アーティストにお願いしたり、Tシャツのデザインなどの特典を用意するのに
随分手間取りました。準備万端整えて、9月6日に60日の期日でスタート。
ほぼ半分の1ヶ月がすぎた今、目標金額の47%、2万6千ドル到達。
まだ半分に達していないので、少々焦りがでてきてます。

スタッフ3人で、毎週一度一斉メールを送り、フェイスブック、ツイッターなど
ソシアル・メディアでのよびかけ、ブログ更新、サポーターへのメッセージ、
各方面に電話やメールでのフォロー、マスコミ対応、ミーティングなどを
ほぼフルタイムで進めているのですが、それでも追い付きません。

フェイスブックにも書きましたが、10日ほど前の深夜、知らない人から
突然1万ドルの寄付が舞い込みました。さすがアメリカは懐が深い!と
感動したのもつかの間、結局その寄付は「ひやかし」だったことがわかり、
次の日あっけなくキャンセル。

他にも「サポートではなくて、この映画に投資したい」
「私は、賞をほとんど総なめにした経験ある映画プロデユーサー。
編集のアドバイスはいかが?」などのオファーがあったり(大体はあやしい)
「トレーラーに出ている赤いネクタイの男性がとてもステキ。連絡先教えて!」
なんていうメッセージもきます。

ある日は、どどーっとサポーターが増えたかと思うと、次の日はゼロ。
またある時は、見知らぬ人から$1000ドルの寄付を頂いたり(こちらは本物)、
何かある度に一喜一憂。心身ともに疲れます。

残りあと23日。11月5日までに3万ドル近い金額を集めなくてはなりません。
ローラーコースターに乗ってるような毎日が、あと3週間近くも続くと思うと、
とほほ、です。

明日は、イタリアのナポリで開かれるアート関係の映画祭、
ARTECINEMAに向けて出発。
しばらくは、キックスターターの事を忘れて骨休めしてきます。

なぜ続編『ハーブ&ドロシー50X50』をつくろうと思ったか

『ハーブ&ドロシー50X50』の続編が67分までつながった。
編集の途中でインディアナポリス美術館の映像を見ながら、
「続編をつくろう」と決めた時の事を思い出している。

4年の製作期間を終えて『ハーブ&ドロシー』が完成したのが
2008年6月初め。その直前に、ハーブ&ドロシーの
寄贈プロジェクトDOROTHY & HERBERT VOGEL
COLLECTION:50 WORKS FOR 50 STATESが発表された。
アメリカの国立美術館として、最大規模のナショナル・ギャラリー
でさえ、4千点を越える二人のコレクションにはお手上げだった。
結局1100点だけを収蔵して、残りを何とかしなくてはならない。
その解決策として考え出されたのが、このプロジェクトだった。
50作品をひとまとめとして、50のグループをつくり全米50州の
美術館に、合計2500点を寄贈するという壮大な計画である。

当時は映画を完成させることで精一杯、そして寄贈計画について
映画で紹介する余裕もなく、結局映画の最後にテロップ処理で
済ませた。アメリカのアート史上に残るような構想と聞いても、
精も根も尽き果てていたので、まさか続編を作ろうなんて夢にも
思わなかった。

作品の寄贈を受けた美術館は、5年以内に50点全部を揃えて
「展覧会」を開かなくてはならない。一番乗りで展覧会を
開いたのがインディアナポリス美術館だった。ハーブ&ドロシーは、
元の館長と仲がよかった関係もあり、オープニングに出席すると
いう。それが2008年の12月で、二人が飛行機で旅行した
最後となった。二人が行くのであれば、DVDのボーナス映像にも
使えるかも知れないし、とりあえず撮影しておこう、と軽い気持ちで
同行した。

インディアナポリスは、中西部でシカゴに次ぐ2番目に大きな
都市で人口83万人。インディアナポリス美術館は、全米で8番目に
大きい美術館で、世界有数の江戸の美術や、
優れたターナー・コレクションで知られている。

スウ・ドーホーやキャラ・ウオーカーの作品が展示されている
現代アートのコーナーを抜けた奥にハーブ&ドロシーのコレクション展
があった。COLLECTED THOUGHTS と題されたその展覧会に
一歩足を踏み入れた時、ガツンと頭を打たれた気がした。
私は4年間もハーブ&ドロシーと過ごし、彼らの人生について
映画で語りながらも、二人のコレクションについて実は全然
わかってなかったのだ。というのも、私は二人のコレクション展を
美術館で見るのは、それが初めてだった。作品を撮影したのは、
二人のアパートとナショナル・ギャラリーの閲覧室で、あとはスライドや
カタログで見ただけだった。

ほとんどがドローイングで確かに二人のあのNYのアパートに
収まる小品ばかり。ミニマル、コンセプチュアル・アートに限らず、
アブストラクトな作品や彫刻、写真のコラージュもある。そして、
全く名前を知らないアーティストの作品も多い。 実につつましい
ながらもすぐれた作品の数々。それが、フレームに収められ
美術館の照明の下で展示され、「コレクション」として全体像が
見えた時、二人がほぼ半世紀に渡って注いできたアートへの
愛と情熱が圧倒的なパワーとなって伝わってくる。

ハーブとドロシーは、コレクターとして、何てすぐれた目を
持っているのだろう。そう心から納得できた瞬間だった。それは、
有名な俳優の舞台裏の生活を何年も密着した後に、初めて
舞台でスポットライトを浴びて演技するところを見たような感動だった。

その日、撮影を終えてカメラマンとインディアナポリスのバーで
ビールを飲みながら「私やっぱり続編をつくるわ」と宣言していた。

50の作品は、ミニ・ヴォーゲル・コレクションとしてまとめられ、
どの美術館で見ても、コレクションの全体像が見えるように
キュレーションされている。2500もの作品を50のグループに分け、
引取先を探すのは、気が遠くなるような作業だったと思う。
そして全米に散らばって行って、地元の人はどんな思いで
ハーブ&ドロシーのコレクションに触れて、反応するのだろう?
アラスカやハワイ、ノースダコタで、ミニマル、コンセプチュアル・アート?!

記録して、二人の物語の完結編としよう。そう決意してほぼ3年が
過ぎた。死ぬほど大変な思いをして一人目を産んでも、
しばらくすると痛みやつらさをすっかり忘れて気がついたら二人目を妊娠・・・

続編は、そんな風に始まった。今、つながったラフカットを見ると、
まだまだ撮り足さなくてはならない映像やインタビューも多い。
来年はハーブ&ドロシーの結婚50周年記念なので、何とか
あと半年ほどで完成させなくては・・・と日々頭を抱えている。